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本当はあの場から逃げ出したかった

「つまり、大学という所もまた、この世の宝なんかを蓄積することに捧げられたイカレて狂った施設にすぎないって考え。つまり、宝はなんていったって宝なんだ。その宝が、金銭だって、品物だって、あるいは教養だって、あるいは普通の知識だって、そこに何の違いがあるか?包紙をはげば、わたしたちにはみんなまったく同じ物のように思えたのよ―今だってそう思うわ!ときどきわたし、知識ってものが―ともかく、知識のための知識の場合ならよ―何よりいちばんいけないんだと思うことがあるの。最も許し難いものだわ、たしかに」(サリンジャー、『フラニーとゾーイ』より)

女性とか、ネイティヴとか、障害者だとか、高齢者だとか、貧しい人だとか、そういうマイノリティと呼ばれる人たちに向かい合う--ことができた--時に、マイノリティをマイノリティたらしめている認識/政治的な境界線をそのまま所与のものとするのではなく、そういった境界線を引いている正体不明の恐怖を少しでも明るみに出して、少しでもその境界線をずらしながら、少しでも交通可能な境界領域を生成させていくこと。それが、僕(たち)の想い描くユートピアへの唯一可能な経路だとしよう。

それでは、そういう夢物語を語ることを許しているその構造自体が特権を生み出しているのならどうしたらいいか。そう、僕たちが知=政治的な実践を行うことを可能にしている存立基盤ともなるような境界線。その向こう側にいったい誰がいるのか。

少々乱暴な議論をしているのはわかっているが、僕はいらだっている。知識、教養、教育、学歴、そういったものについて語る僕たちは、それまで先住民や水俣について語っていた善人ぶったトーンをやめて、急に意地悪な顔になる。それはそうさ。アカデミックな資源を保有し、運用できることを前提として、僕たちは人に優しくなれるのだから。誰かを大事にしたり誰かに優しくしたりするために必要なものを、誰かから搾取して僕たちは進む。優しい吸血鬼。

思い出した。中学生の時、ある朝学校に行くとみんなに「知能指数が低い」って馬鹿にされた。こういうことだった。少し勉強をサボりがちな生徒たちを励まそうとして、ある先生は当時成績が良かった僕の知能テストの結果を引き合いに出したらしい。「あいつ、テストの点はいいけど、知能は低いんだぞ。だから、お前たちもやればもっともっといい点が取れるはずだぞ」って。秘密なはずの結果をその先生が公にしたのは、多くの先生に余計なことを言ったり聞いたりする僕が嫌われていたということもあるだろうけど。でも、そのお陰で、僕は自分の「本当の」能力を知っている。

それからずっと、誰が頭がよくって、誰が勉強できなくって、誰が落ちこぼれてって話を(特に公の場で)聞くことが耐えられない。それが、たとえ慈愛に満ちた、「かわいそうなできないあの人たちをどうしたら救ってあげられるのだろう」的なトーンであっても。だから、あの時、本当は逃げ出したかったんだけれど、その代わりになんとか嫌な言葉を聴かないために話し続けた。そして、僕も仲間入り。もう八方ふさがり。

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Comments

とりあえずその中学教師呼んでおいでよ。ぼくが殴ってやるよ。卑しいよ。

世間ではさも成績とか学歴とか知能指数とか、そういう偶像に意味があるかのように言う人も多いけれども、そんなものは本当のインテリジェンスとは別なものですよ。だからせせら笑っておけばいいんですよ。それがわからないということはかわいそうな人たちなんだからさ。

むしろその本当のインテリジェンスの偏在のほうが残酷な格差を生むと思うんだけれども、世間知らずの院生なんてましてそういうことがわからないんだから、静観しておけばいいのでは。

Posted by: えむ | June 17, 2005 05:02 PM

いつも共感のこめられたコメントありがとうございます。勇気づけられます。

今回書いたことは、能力主義の人たちへの怒りというよりも、アカデミズムの中で学的な営為を継続していくことが、知識や教育を持つもの/持たざるものという格差をより拡大していってしまうこと--そして当然、そこには僕自身も埋め込まれているということ--へのイラつきが原因となっています。

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