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過去からのメッセージ

同時期に、投稿論文関係の作業が2つ舞い込み、やや慌てている。

1つは近日刊行予定の某学会誌論文の校正、もう1つは若干の修正後掲載可という結果の出た某学会誌論文の直し。昨年度の就職戦線で、ゴールがはるか遠くにかすむ博士論文よりも、比較的目標がはっきりとした投稿論文に力を入れた結果だが(そして今それは戦略ミスだったと確信するが)、それにしてもよく書いたものだと思う。

読んだり、直したりしながら、たった1年ほど前に自分が書いたものが、現在の自分に対してこれほど違和感を喚起するということに驚いている。(いまでも若干その気配はあるが)先の見えない不安定な状況の中、何とか自分の思考と思想をことばにすることで危ういバランスを保っていたあの頃の強気と弱気の交差が手に取るようにわかる。だからといって、それがすべて危うい内容かというとそうではなく、今の僕には決して書けないだろう一言や一文にはっとさせられる。それは「おい、お前、日和ってないかい?」って僕に詰め寄ってくる。

1つには、僕がまだかなり不勉強で自分のスタンドポイントを確立しておらず、短期間の間にいくつもの理論家や思想家の間をフラフラしてそれらすべてに色目を使いながらなんとなくやってきたという認識したくもない事実がある。過去の自分との対峙は、時間軸を進んできた現在の自分が、かつてそうあるべきだと思っていた姿ではないことを思い知らせてくれる。もっともこれは研究に限ったことではないけれども。

でももう1つ、過去の自分にとってまったく予想できなかった状況にいる現在、それが過去からみれば徹底的にバーチャルなものでしかありえないにもかかわらず、現在の自分にとって完全にリアルに感じられるという意味での断絶の感覚は、時間軸的な過去との対峙とはやや異なったものでもある。それは、うまくいえないけれど、一本の線路を走り続ける電車ではなく、波や風の動きによってどこに流れていくかわからない、あるいはわからなかった小船のイメージかもしれない。そのとき、過去の自分との対峙とは、過去と未来に対して責任を背負った自分というよりも、「もしもボックス」で発生したパラレルワールドにある他者的な自分との出会いに近い。過去から解き放たれた過去とでも呼べばいいだろうか。

このあたり、すなわち<時間軸上の未来/現在/過去>と<バーチャルな未来/現在/過去>のありかたの違いと連関について、実は某学会のある分科会を聴きながらメモしていた部分でもある。そして、夢を描きながらその夢がかなわないかもしれないことを知っているというアイロニカルなあり方を、僕は自分の発表で「ここではないどこか」と「いまここ」の交差するさまとして展望した。(もしかしたら全然違うかもしれないけれど多分)同じようなことを発表していた人とは、今回は出会うことがなかったが、それはそうであったかもしれない可能性としてストックされていくことで、潜在的資源となるだろう。

期せずして過去からの自分の声を聴くことから、いまここにある自分がほかのどこにでもありえたということを再認識する。自分を不安定な場所に連れ戻しながら、自由であることの幸せをほんの少し感じる。そんなくだらないことをひとしきり考えたから、そろそろ作業に戻ろうと思う。

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Comments

学会お疲れ様でした。

>ゴールがはるか遠くにかすむ博士論文よりも、比較的目標がはっきりとした投稿論文に力を入れた結果だが(そして今それは戦略ミスだったと確信するが)、

という部分、気になったのですが、僕はいままさにこう思っているのですが、それが戦略ミスというのはそういうものなのでしょうか。なんか合理的に見えるのですが。就職された現在はもっと大事に思えることがあった、ということでしょうか。

Posted by: えむ | June 07, 2006 12:51 AM

>えむさん

個人的にも分野的にも事情はまったく異なると思います。僕と僕の分野に関していえば、就職活動中は博士号取得者との競合が多く、就職後は博論執筆時間が相対的に減少するという意味で、戦略ミスだったと考えています。

Posted by: azuma | June 09, 2006 10:57 AM

御教示ありがとうございます。そうですか、なるほど。そちらの分野では取得者が競合対象の多数になる、というのはやはりちょっとこちらとちがうようですね。これからはこちらもそうなりそうですが。いつもありがとうございます。

Posted by: えむ | June 09, 2006 01:37 PM

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