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忘却への恐怖

フィリピンでのフィールドワーク準備をゆっくりと進めている。

ずっとお世話になっている調査地の友人の携帯に国際SMSを送る。「今月末辺り、そっちにいくから」と(もちろん現地語のイロンゴで)。すると即座に「まっすぐうちにおいで。いつでもwelcomeだから。みんなmiss uだよ」といううれしい返事が来る。しばらくして、その友人から国際電話がかかってくる。いつも携帯のプリペイド・カードの残高がなくて困っているくせに。久しぶりの懐かしい声に心が温かくなる。

でも、久しぶりの僕のイロンゴはたどたどしい、というかストレートに出てこない。実は、直接国際電話じゃなくてSMSにしたのも、きっと1年経って言葉をかなり忘れていることを恥ずかしく思ったから。多分、今回も3日も滞在すればまた思い出すだろう。でも、忘却への恐怖感はいつも僕に付きまとっている。あの言葉を僕が完全に忘れてしまったとしたら、あの人たちとの関係はどうなってしまうのだろうか。

調査のために覚えた言語だから、調査の必要がなければ使わない。そうやって、僕は自分の研究やキャリアのためにエゴイスティックにあの人たちの言語を身につけて、そして必要がなくなれば忘れてしまう。忘れないでいること、覚えていることがあの人たちとのつながりであるとすれば、やはりもっとメンテナンスするべきだろうか。それとも言葉なんて関係性の一部分でしかないのだから、それすら乗り越えうる関係を構築すればいいのだろうか。

いずれにしても、僕はあの人たちがいるあの場所に、あともう少ししたら戻るだろう。

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Comments

私は、もしかして年齢のせいで脳みその機能が低下しているせいか、行ってからの言語能力の揺らぎの方に不安を覚えます。

この半年ほどの行ったり来たりの間、日本語を使う機会も、英語で話す場面も少なくなく、それも加わって現地語(私の場合はフィリピン語?タガログ語?ここにも揺らぎが既にありますが)の感度は、上がったり下がったりでした。昨日はすんなり話せた感触が、次の日にはすり抜けてしまい、頭が金縛りになったかのように、相手の言っていることが茫漠としてしまう恐怖感。

***

正直、これまでを振り返るならば、受けた恩義ばかりが大きく、返すことのできたことはわずかだったようにも思います。でも、あちらに、自分にとって大切な人たち、かけがえのない人たちが生を営み続けている現実は、今の私のように東京に戻ってきても、変わることはないのですから、その人たちと一緒に歩むことはできなくても、一緒に語ってきた言葉を愛情こめて磨いておくことくらいはできるかな、と思ったりします。一種の想像上の共同性でしかないかもしれませんが…。

ただ、私は世界的な想像上の共同体が曲りなりにリアリティを持っている、と愚直に信じようとしているキリスト教徒なる偏屈者でもあるので、共同性が想像上のもので、お互いの主観が響きあわず空回りしていたとしても、それでもそこに何かが通っている、ということも起こりうるのでは、と頑固に考えてしまうのです。まあ、そういう希望的観測にすがってマニラと東京を念に何度も行き来し続けている、ということに過ぎないのかもしれません。

タガログ語、磨きなおしておくかな…。

Posted by: | August 10, 2007 07:23 PM

Sammyさんですよね?きっと。

多分国語と地域言語はかなりノリが違うのではないでしょうか。でも、それはさておき、あの国で言語を考えることの、なんと難しいことか。

サバお疲れさまでした。次は僕の番ですよ!

Posted by: azuma | August 11, 2007 12:06 AM

ときどき日本語もたどたどしくなりますが…
ちなみに、「イロンゴ」はイタリア語でJのことです。
「長いI(アイ)」という意味です♪

Posted by: みのりん | August 11, 2007 04:55 AM

いつもグローバルな日記、すごく楽しみに見ています。
研究のためとはいっても、色んな言葉を勉強されているのは、すごいな~って思います。
「いつでもWelcomeだから」というメッセージ、
すっごくありがたいですよね(^▽^)
もっともっと早く現地に行きたくなったのではないですか?
私も早く日記を読みたいなって楽しみになってきました。

Posted by: Mikarin | August 11, 2007 10:47 AM

Azumaさま

「私は、もしかして年齢のせいで脳みその機能が低下しているせいか…」以下の文章は、確かにそのとおり、Sammyです。また名前を書き忘れました。すみません。

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仰るとおり、国語と地方語で、かなりノリが違うと思います。それとどれほど関係あるかどうかですが、ちなみに、今回大学の実習で学生を連れ、カウンターパートNGOの引率でバナウエの別のNGOの観察に行きました。プロジェクトを導入しようとしているNGOの人が、住民集会で英語とタガログ語でまくし立て、その部下がイフガオの言葉で説明し(でもきっと、そのボスの言っていることを彼なりにいろいろ変えているかもね、と想像しました)、最初引き気味だった住民たちが最後は彼らのプロジェクトに一応積極的にお付き合いしている様子を見ました。

これが終わった後、そのボスが、「見た? あのかたくなだった農民たちが、私の説得で、あんなに変化したのよ!」と言っているのにちょっと苦笑しながら、あれこれ考えてしまいました。彼女は「フィリピンの中でも誇るべきうんぬん」とか、「イフガオの栄光がどうのこうの」といっていたのですが反応がとても鈍いように感じられました。現地語が分からないなりに、「この村の生活」の話のときだけは自然に反応が出、後はNGOスタッフの気迫に押されて拍手させられていたり、などというふうに見えました。

アメリカ仕込のタガログ語圏出身の強気で自信にあふれたNGOスタッフの熱心と確信をあざ笑うかのように、そこにいた住民たちの意味空間が、地方言語の壁の中で、その彼女にはきっとまるで了解不能な「かたくなさ」をもってしなやかに遊んでいる感じがしました。皮肉にも、この地域では、特に年寄りにはタガログよりも英語の方がなじみがあったりもして…。

***

マニラにいると、フィリピン語は国語だけれど、そのもとになっているといってよいタガログ語は、やはり地方語でもあるのでは?という感覚も持ちます。教科書で勉強するのは「フィリピン語」なんて書いてあっても結局実質はタガログ語、日本で勉強すればするほど、国語として諸地域出身者の間で流通する言葉とずれと軋みが生まれる感じがもどかしく、でもそのもどかしさもまたある種楽しかったりもしますね。

今回マニラで学生たちを受け取ってくれたNGOとも付き合いが段々長くなってきて、職員やボランティアの出身地が様々だということ、その中で言語意識も様々の中、マニラの言語空間の中で「フィリピン語」を結節点としながら英語も交え、微妙な言語ポリティクスが働いているのかもしれない、などと考えたりもしました。

味わい楽しんできてくださいね!

Posted by: Sammy | August 11, 2007 12:09 PM

>みのりんさん

僕はいつも、2日酔いの朝には日本語が片言です(笑)。

なるほど"i"の"long"ですか。イタリア語なんですね。僕が調べているアスワン(Aswang)というフィリピンの妖術師がエジプトのアスワン・ハイ・ダムと混同されたり、最近では、調査地のロハス(Roxas)市とあの「LOHAS」がかぶったりして、なかなかややこしいです。

ちなみにイロンゴはIlonggoと表記され、フィリピンの西ビサヤ地域、おもにパナイ島とネグロス島を中心に話されています。フィリピンで4番目に大きな言語集団です。僕の調査地のカピス州ロハス市付近では、特にヒリガイノン(Hiligaynon)とも呼ばれます。

>Mikarinさん

コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、研究を進めるためには言葉を学ばなければいけないという状況はとても大変で、幾度となく日本語や少なくとも英語で研究できる場所に変えてしまおうかと思ったこともあります。が、超マイナー言語習得の過程でしか得られない貴重な知見や経験があったのも否定できません。

Welcomeなのは本当にありがたく、うれしいのですが、これから出発までお土産選びに頭を悩まさなければいけません。出発まで1週間を切ってしまいました!

>Sammyさん

コメントありがとうございます。

公用語(英語とフィリピノ)と国語(フィリピノ)と地域言語(イフガオ)の3言語状況が、開発やNGOと「現地」とのかかわりの中でねじれている様子、またそこに介入する旧宗主国の言葉である英語がもつネオ・コロニアルな力や、国語としてのフィリピノ語と地域言語としてのタガログ語の奇妙な重なり、さらに日常的実践やローカル・ナレッジのなかに埋め込まれた地域言語といったフィリピンならではの複雑な言語状況が鮮明に伝わってきました。さらにいうと、そこにSammyさんや日本の大学生が国際交流や異文化理解という文脈で関わっているのですね。

「1つの国家、1つの民族、1つの言葉」という怪しい虚構の中でしか確立できない近代的なセルフにしがみつくどこかの「美しい」国の人たちにぜひ伝えたいと思いました。

だんだんフィリピン行きのテンションが上がってきました。

Posted by: azuma | August 11, 2007 06:24 PM

If you get caught by airtel officials then soon your sim card will be blocked by them and that block might be temporary or permanent.

Posted by: airtel 3g hack 2015 no survey | October 12, 2015 02:46 AM

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