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それでも見たい夢があるから

母校の研究室では大学院入試があったらしく、よく知る後輩が博士課程に進学を決めた。僕も数年前に、同じステージで同じようにドキドキしながらあの合格の掲示を眺めた思い出がある。だからこそ合格の喜びはよく分かるし、心から祝したい。おめでとう。

ただ僕の頃にもかなりそのトーンは流れていたが、最近の『高学歴ワーキングプア』等に代表される博士学位取得者の就職難の顕示化によって、進学する本人も、そして周囲の人々も未来についての不安を拭い去れないのではないだろうか。その状況をまた別の後輩は、「ようこそ、光無きトンネルへ」と表していた。就職が決まらなくて不安で不安でパニック発作を起こしたくらいだから、僕にもその気持ちはよく分かる。

ただ、一つだけ忘れてはいけないことがある。それは、そんなに圧倒的につらく先が見えなく、正直いって不利な道を行こうとするのはなぜだろうということだ。答えを急げば、多分それはどうしても知りたい何かと伝えたい何かがあるから、だろう。いまここにいる自分には決して届かないその何かに、どうにかして到達するために選ばざるを得ない道。僕(たち)にとって、それは大学院の博士課程という選択だった。

だからといって、博士進学を特別視する気はない。大学時代の演劇部の友人たちの中には、研究者よりも(僕には)さらに困難に思える役者や歌手を目指して、それを手にした人もいれば未だ志半ばの人もいる。あるいは「一般」的と称される企業や公務員就職にしたって、学生たちが過去から現在を結んで、その延長線上に未来を描く四苦八苦を目の当たりにしていれば、一体そもそも現代日本の社会システムにおいて、かくも「労働」することがこれほどに大きな賭け金になることから疑ってみたくなる。

生まれてからずっと、ほとんど与え続けられてたきただけの選択肢(「どんな「労働」がお好き?」)の中で、ごくほんのわずかだけでも自分の主体性をそこに滑り込ませるような営為としてありうるのが、「夢を見る」ことじゃなかっただろうか。「したい」ことよりうも「できる」ことを選択することを否定はしないしできやしない。けれども、今の自分では手にすることができない何かへと向かう道の出発点で、最初からその困難さを声高に叫ぶのは、まるでお腹が苦しくなるから食べ放題にはいかないっていうみたいにかけ違いを感じてしまう。だって、困難なのは分かっているけれど、それでも見たい夢があるからじゃないのって。

国内外における格差という問題、そこから生じる危険とリスクと不安、そして対応策としてのセキュリティの確保。全てのコースに身を添わせて生きていくことのクレバーさをもっていない僕には分からないだけかもしれない。でも、それがどんな道であっても、ただ夢を見ることを選び取る人たちに神々しいばかりの美しさを感じてしまうのだけは止められない。そして僕も、ずっと夢を見続けていたい。

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Comments

うー、心に響きましたです。
最近自分も、「不利な道を行こうとするのはなぜだろう」って
思ってました。夢があるからなんですよね・・・
(ボキャブラリーがないコメントですみません)

Posted by: ちろ | February 16, 2008 11:07 AM

不安って厄介ですね。

完全に消え去ることはないんでしょう。

一生付き合うんだと思うと気が重いなぁ。

まぁそれだけではないんだろうけど。

Posted by: 0210 | February 17, 2008 01:30 AM

確かに、夢があるから、生きていける・・・。
いえ、生きているということすらも、感じない大人たちが多い世の中だと思います。
そんな中、やりたいことがある、夢を持ち続けていられることは、どんなに素敵なことか・・・。
それがたとえ、どんな道であったとしても、どんな苦難があったとしても。
私は応援し続けていたいって、心から思います。
私もきっと、同じ部類だから。
今は修士で頑張っていますが、
今の現場で行き詰ったり、先がみえなくなったり、信じるものがぶれはじめると。
私もまたこの先、もしかすると?どこかの博士に行くのかな~~~なんて思います。
でも夢を追い続けること・・・
決してやめないでいようと思います。

Posted by: Mikarin | February 17, 2008 01:34 AM

新たな道を選択しようとし、そして、その選択期限がせまってきつつある私にとって、とっても染みました。

Posted by: maru | February 17, 2008 10:01 PM

>ちろさん

「不利な道を行こうとしている」のですか?がんばれ!

何にも考えないで練習ばかりしていたあの頃が懐かしいねー。

>0210さん

大切なのは不安を感じないように引きこもることではなく、不安を抱えながら生きていくことを受け止めることでしょうか。

僕は、あなたの不安含みの未来を応援しています(笑)

>Mikarinさん

そういえば、博士進学に際してまったく職と収入なしかつ借金前提だった僕には、社会人院生はかなり安定した立場に思えました。きっと別種の悩みはあるのでしょうね。

いずれにしても夢がかなうこと、お祈りしています。

>maruさん

もちろん夢だけで全てを選択できるわけではないから、読み直して少し無責任なエントリーだったかなとも思います。

でも、とにかく安定志向の人生選択には、少し気分がめいってしまうのです。

お互いがんばりましょうね。

Posted by: azuma | February 18, 2008 01:48 AM

ついつい現実から逃げだしたくなっちゃうから、
何かを読んだり、誰かと話したりする時間って、いいきっかけです。
ありがと。

Posted by: maru | February 19, 2008 10:41 PM

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