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あれの季節

週末から連休は、ボジョレー解禁や推薦入試で怒涛のように過ぎ去っていった。

今、僕の目の前に立ちはだかっているのは月末の原稿締め切り。同じく卒論第一稿提出締め切りを抱えている4年生を横目に、僕も実はかなり焦っている。

そして、それよりも何よりも、今年もあれのシーズンがやってきた。あの痛いあれ。あの面倒なあれ。餓えと渇きのあれ。そして、恐怖と戦慄のあれ。そう、明日は年に一度の職場の健康診断。勤務先では、教員は全員受診必須となっている。経費節減のこのご時世なのに、かなり充実したメニューで、それが僕にとっては気分を重くする原因となっている。

まず血液検査。だから注射は嫌いなんだってば。痛いし、血が抜かれるの怖いし、途中で地震が起きて針が折れないか不安で仕方ないし。毎年「注射が苦手なんです。できるだけ痛くないようにお願いします」と看護師の目を見ながらに真剣にお願いする。すると大体「横になりますか?」と聞かれるんだけど、そうじゃないんだよな。血を見るのが怖いという人がいるけれど、僕はむしろ何かあったら怖いから血管から注射器へ血が無事に吸い出されていくのをじっと見つめる。泣きそうになる痛みと針が折れる不安をこらえながら。今年も上手で優しい看護師に当たりますように。

次にバリウム。実は「えー、また今回も胃ガン検診あるんですかー。40歳からじゃないんですかー。僕毎年やってますよー」と大学の保健士さんに愚痴を言ったら、「あ、じゃあ受けなくてもいいですよ。でも先生胃収縮でしょ。ピロリ菌多かったら胃ガンのリスク高いんですよねー。そもそも胃ガンって大学教員に多いんですよねー」といわれてしまった。そういわれたら不安なのでやっぱり受けようと思う。バリウム飲んで、ゲップをこらえながらジムナスティックなマシーンの上で転がりまわって、下剤でそれを排出して。それは器官なき身体か、身体なき器官か。どちらでもいいけれど、ああ最悪。

でももっと最悪なのは、胃ガン検診が再検査になったら。昨年度、要再検査だった僕は人生初の胃カメラを飲んだ。散々調べて相談して、経口より経鼻の方が楽だと判断したのに、鼻から胃まで管を通して麻酔でよだれを垂らしながら自分の体内をモニターで見るのは、つらく苦しく、何かとても大切なものを無茶苦茶に蹂躙されてしまった気分で、悲しくって思わず泣き出してしまった。担当は女性の医師と看護師だったけれど、すごく驚いて優しくしてくれたのを覚えている。もう二度とあんな思いはしたくない。

そしてもう一つ。健康診断前日は21時以降、飲食禁止。もちろんアルコールは禁止。朝も飲食禁止。たった12時間くらいというけれど、餓えと渇きは半端じゃない。みんな平然とこなしているのだろうか。今夜は苦行中の修行僧のようにストイックな気分で、明日の注射とバリウムの悪夢にうなされながら眠りにつくのだろう。

健康診断によって身体のありとあらゆる部位や機能が数値化されることで、外部化され客体化される。そのとき身体はもはや僕の一部ではなく、それ自体他者なのかもしれない。そういえば、押井守の「甲殻機動隊」や「イノセンス」は、そんなテーマを扱っていた。電脳化と義体化が進み、人間なのかロボットなのかもはや分からなくなってしまった身体。それでも最後に心や魂の証として囁くゴースト。

つべこべいわずに、健康で生きていられることに感謝していればいいのだろうか。そして僕は今、めずらしくちょっと重めの風邪を引いている。

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