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自己ではなく他者に向けて―現場論覚書

昨日から、イロイロに来ている。マニラからビサヤにくると、ようやく「帰ってきた」感じがする。

今回も友人の主催するNGO「LOOB」を訪問。いつもの懐かしい顔や新しいスタッフと語らいながら、フィリピンやフィリピン人との付き合い方について考えてみる。

LOOBでは、ワークキャンプやボランティアスタッフに参加する日本人のほとんどが、現役の大学生、しかも女性である。男子学生や社会人の参加者は、いるにはいるがすごく割合が少ない。僕も教えていて思うのだが、最近の日本の女子大学生は途上国の貧困問題やそれに対する開発・援助について、とても関心が高い。そして、その中から、実際にNGO活動やボランティアで貧困地域の国々を訪れて、「何かする」学生も少なくない。

そういえば、内田樹の『邪悪なものの鎮め方』の中に、現代日本の20歳の女性の関心は(内田さんは女子大で教えている)、これまでのように「ファッション」や「消費」ではなく、「東アジア」と「窮乏」に集中しているというようなことが書いてあった。日本経済の調子がいいときは、「自分がどうしたらより良い状況になれるか」ということに関心が向いていたが、ずっと不景気で就職を含む将来に希望が持てず、自分たちでさえ「窮乏」状況に陥る可能性がある今日においては、「今の自分が他者に何をしてあげられるか」という関心が高まるということらしい。

内田さんの著作は大好きで、いつもその議論の明晰さには敬服しているのだが、今回は珍しく若干の違和感を覚えた。いや、内田さんにというより、もし彼の言うとおり日本の女子大学生が、他者に対して「何かする」という関心で途上国を訪れるのだとしたら、その動機は多くの場合裏切られてしまうだろうし、もし裏切られなかったら、それは彼女たちにとって大きな損失なのではないかと思う。その「裏切り」とは、自分たちの「無力さ」という現実である。

経済的に好調ムードであれば、消費したり留学したり、未来の自分の外的・内的な向上に執心する。不調であれば、自分の現在を確認し承認してもらうために、より「不幸」な人々に対して「何かする」。どんな状況にあっても、徹底的に自己への配慮のみが肥大化し、他者への想像力が欠如した人々が、ついに他者に対して開かれ、他者との関係の中に自己を位置づける機会の1つが、NGO活動やボランティアではないだろうかと思う(もちろん、人類学者として僕はフィールドワークもそのような機会なのではないかと考えている)。

途上国に赴き、そこに暮らす人々と具体的に日々顔を合わせ、語り合い、協働する時間の中で、想像以上に他者は深く強くふくよかに日々を生きていることを知る。「「貧困」で「援助」を必要としている」という経済的なチャンネルでのみ、幻想的につながっていた私と彼/女たちは、より広く生活全般にわたるコンテクストの中で現実的につながっていく。当事者が比較的困難な状況で生きていくための「生活知」を学ぶことによって、また自分が経験する様々な生活上の困難を救われることによって、「貧困」という指標で助ける/助けられるという基準を設けていた自分を反省的に捉えなおす。ときにそれは、NGO活動やボランティアにおいて、「学ぶ」のも「変わる」のも実は自分たちの方ではないかという認識へといたる。前もって想定不可能な他者との関わりが、想定していたはずの自己のあり方を変えていく。

そんなうまくいくことばかりではないのは知っている。「貧困」の映像を見せれば、自分たちは恵まれているという感想を抱く。現場に赴いても、強固な自己のイメージをわずかばかりも揺るがすことなく、助けなければ、教えなければ、という態度を崩さない。そういう人たちが実は大部分なんじゃないかとも悲観している。それでも、他者を知り、他者と関わった人たちの何人かは、開かれ揺るがされ、不安に怯えてばかりいる絶望的な雰囲気を打破する起爆剤になってくれるのではないか。少なくとも、僕が関わる学生たちには、NGOであれフィールドワークであれ、それが自己ではなく他者についての経験であって欲しいと願っている。

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Comments

Hey Ken, I have no idea what you wrote there, will probably be using Google translate in awhile to figure it out. This is Vic. Cool that I can find stuff about you on the web. I wish I was this popular.

Posted by: Vic | September 05, 2010 02:28 AM

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