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開放の中のしばしの自閉

日中、暖かくなった。思わず、ロードスターをオープンしたくなるくらいに。しないけれど。

修士論文と入試関係の業務ダブルヘッダーの翌日に、久しぶりにぽかっと空いた時間を自宅で、自分のためだけに過ごしている。とはいっても、その大部分は査読が返ってきた原稿の直しに費やされているのだけれども。それでも、ゆっくり朝からお風呂に浸かったり、ランチを作って食べたり、コーヒーを入れたり、ジャージにメガネで近所に買い物に出たり(平日なので多分近所の人には不気味)、そういう当たり前でプライベートな「日常」を通過しながら、じっくりと差読者の厳しい意見を咀嚼し、自分の原稿を読み直し考えるという作業をしていると、すごく苦しいのだけれど「ああ研究しているな」という気分になる。

2004年からの2年間、PD時代は週2回ほどゼミや非常勤で出かけるほかは、基本的に自宅で今日のような生活を続けていたので、あの頃の感じを思い出して懐かしい。先の人生がどう転んでいくか、全くわからないからパニック障害になって過呼吸の発作が出たりもしたけれど、逆に言えば読み書き考えること以外にすることもなく、またそれしか不安から抜け出す方法がなかったので、すごくシンプルだった。起きて、読んで、食べて、書いて、排泄して、考えて、食べて、風呂に入って、酒を飲んで、寝る。その繰り返し。いつまでそれが続くかわからないけれど、それをいつまでも続ける。あたかも本能で動く動物のように研究する。完全に確立した「個」としての「孤独」な生活。

そうしていたら、突然連れ出された。光が差したようにも感じたけれど、暖かい布団を突然剥ぎ取られたようにも感じた。宮崎に、大学教員になるために旅立った。それからずっと、今日に至るまで、あのころのような動物的な研究生活を送ったことはない。職場があり、仕事があり、同僚がいて、学生がいて、それらが僕の閉ざされていた生活を完全に開かれたものにし、そして他者とのつながりを与えてくれた。自らの物語世界に自閉することなく、開かれた世界のなかで、義務や責任とその見返りとしての報酬を与えられながら生きることはそれほど悪いことじゃない。でもふっと欠如を感じるのは、自分のためだけに使える時間が限定されていて、そしてゆっくり立ち止まって集中して読み書き考えることができなくなったからだろうか。

単に、僕の能力が不足しているだけかもしれない。どれだけ忙しくても、自分の時間を確保し、スタイルを確立して、ものすごく多産な人はたくさんいるから。でもどうもそういうことだけでもない気がする。自分が、他者や社会に対してつねに開かれているということ自体への、拭い去ることのできない不安や居心地の悪さ。予測不能で限定無しの偶発的な出来事がつねに生活の中に混入して、その結果、例えばお風呂に1時間入ったり、1日かけてルーを使わずカレーを作ったり、近所の喫茶店に出かけて1冊の本を読み終わるまで粘ったり、そういう自閉しなければ不可能な事柄を実際に不可能にしてしまう。

そうそう、ブログを書くというひたすらに自己満足な行為ももちろん、しづらくなる。時間がないだけじゃなくて、これを読む人たちの顔を想像すると書けることが15パーセントくらいになってしまうから。最近よくつぶやくのは、ツイートが他者や社会との関係性を背景に成立している行為だからじゃないだろうか。ブログとツイートは、質的にまったく違う気がする。自閉した妄想と自己顕示の垂れ流しか、関係という回路にがんじがらめにされた思考の強制的な流出か。

何をどうしようという話じゃない。いや、むしろ今の自分の生活の方が、どう考えてもベターだということも受け入れながら、他者に開かれる希望があるのと同じくらい、自己に自閉する希望があってもいいじゃないのだろうかという話。うまく伝わらないだろうけれど。

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Comments

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